是枝監督の新しい作品「万引き家族」が上映されるのを楽しみにしている。カンヌの映画祭で最高賞を獲ったとか、是枝さんの愛らしさの中にスマートさが滲むルックスがタイプだとか、楽しみにしている理由は沢山あるのだけれど、一番は彼の近年の作品である「海街diary」が好きだからだ。
「海街diary」は是枝版アベンジャーズ(!)と思うほどの豪華キャスト(綾瀬長澤夏帆広瀬)が鎌倉で暮らす四姉妹を四季の移ろいと共に鮮やかに演じるという映画。それだけでも素晴らしいのだが、僕はこの作品に漂う「そこに居ない人の気配」がたまらなく好きだ。
映画の中では四姉妹の母と父は亡くなっていて、回想シーンも思い出の写真のカットもなし。文字通り、ふたりは「そこには居ない人」になっている。しかし、四姉妹はことあるごとにふたりの話をするし、彼女達の言動は自覚はないけれど確実に父と母に影響を受けている。
自分達を捨てた父を見返すために気丈に振舞う長女。料理下手な母の影響でカレーの具にちくわをいれる次女。父親との記憶がなく、どこか家族への帰属意識が薄い三女。そして母の不貞を許せずに自分の存在に後ろめたさを感じている四女。
劇中で四姉妹の父と母の姿を見ることはできないが、彼女達の一挙一動からそこに居るはずがない父と母の気配を確かに感じることができる。不思議と、ふたりの輪郭が見えてくるような。
同じように、僕にも「居ない人の気配」は漂っているのだろう。
必要以上にハキハキと喋る癖は母親に「人前で話すときは大きな声でハキハキと」と言われ続けたのが原因だと思うし、賭け事に異常な嫌悪感を感じてしまうのは、きっとおじいちゃんがギャンブルで多額の借金を背負ったせいだろう。そして、面倒くさがりな僕が(スローペースだが)文章を書き続けているのは、通っていた塾の偏屈で頑固なおじさん先生が、僕の作文だけは毎回褒めてくれたおかげだと思う。
そこに居ない人の気配を感じる。今対面している「彼/彼女」は「いままで彼/彼女に関わった人」によって形作られていること。この映画を観る度に、そんな当たり前で大切なことに気づかされる。